
まずは、私の歯科医としてのはじまりからお話ししたいと思います。
昭和58年、東京歯科大学卒業、麻酔科で半年間の研修の後、東京都養育院附属病院(現在 東京都老人医療センター)という老人総合研究所、老人ホーム(ナーシングホーム)を併設した当時としては数少ない先駆け的な老人専門の病院に入りました。
大学より口腔外科の助教授、総義歯の教授が、週1回、診療と研究のためにいらっしゃっており、直接指導が仰げるまたとない環境でした。
しかし、患者様のレベルは、超難易度で、ストレッチャーに、点滴、心電図モニターをつけて病室から運ばれ、そのままの状態で治療したり、チェアーに座っただけで最高血圧は200を超えてしまう患者様が普通に来院されていました。
新卒の私にとって、毎日の緊張は、並大抵ではなく、怖いと表現した方がそのときの気持ちを端的に解ってもらえると思います。
どうしたらいいのか悩みました。
恩師の助言の中で一番心しているのは、
「患者様がチェアーに着いてから診療が始まるのではなく、医院の玄関を入った瞬間から診療は始まっているんだよ」
という言葉です。つまり、患者様の話し方、歩き方、顔表情などをよく観察し、そこからいろんな情報が得られること。
また、今では当たり前ですが、その当時から、この病院では、患者様のカルテは1冊になっており、どの科からどんな薬が出ているかすぐにわかり、まず、どんな薬をのんでいるかを必ず見ることにより患者様の状態を把握すること。
血圧計などのモニターの変動が口の中でどのように変動するかを如何に感じるかということ。
今言われている無痛治療は、当たり前のことです。
麻酔の針を細くし、麻酔液の温度を体温に近づけ、表面麻酔をする。これは、器具による方法です。
技術的には、麻酔の針を刺入する部位の上を圧迫してから刺入する。麻酔液の刺入速度をかなりゆっくりするなどすれば、血圧の上昇を抑えることができます。
これらは、この病院の異常な緊張から逃れるため自然に身に付いたことです。そして、それは私が今でも大切にしていること、
『より安全』は、山吉歯科の診療テーマのひとつになっています。
どんな治療においても『より安全』を図ることをこの病院で体得したと思います。
山吉歯科のもう一つの診療テーマは、この病院で、2年が過ぎ、その緊張にも慣れてきた頃、分院(比較的、一般に近い老人を対象にしたホームを併設した病院)を週1回任されるようになりました。
まだ間もないとき、入れ歯が落ちるので治してほしいと一人の総入れ歯の患者様がホームから来院されました。早速、裏打ちをしましたが、何度やり直しても、うまくいきません。
途方に暮れていると、患者様は、タバコを1本差し出して『先生、具合がよくなったよ、苦労かけたね ありがとう』と言って下さいました。
少しうまくなったという驕りから十分な診査もしないですぐに裏打ちをした未熟さを反省するとともに、患者様の優しさに涙が出そうになりました。
どうして、十分な結果が得られなかったのか?
それは、その後、私がずっと悩んでいく噛み合わせに問題があったからです。
その患者様の入れ歯は、長年の使用により、へんな噛み癖がついていました。正常な位置より、ずれて噛むようになっていたため、入れ歯の安定が得られないのが原因でした。噛み合わせから治さないと義歯が落ちるのは治りません。
『正しい噛み合わせをいかに維持させるか』
これが山吉歯科のもう一つのテーマとなりました。
養育院では、普通の歯科医が経験できないことを経験させてもらい、これが私の歯科医としての大きな財産になっております。 |